大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和34年(ラ)142号 決定

抗告人 小倉恵美子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告の趣旨及び理由は別記のとおりで、これに対しつぎのとおり判断する。

二、民事訴訟法第五四二条の規定が所論のとおり競売法による不動産競売期日の通知について準用のないことは、同条の文言と競売法第八条、第二七条第二項の規定とを各比較対照すれば明らかである。しかし記録によれば、抗告人は本件競売申立のなされる前から佐世保市祇園町一六〇番地を住所として、その母小倉シメとともに昭和三四年五月一一日まで同居していたところ、小倉斉治と結婚し同日三重県松坂市に移転したのであるが、母小倉シメは依然右一六〇番地に居住していたので、昭和三四年六月一五日の競売期日通知書は、同月八日右一六〇番地の住居で小倉シメが抗告人のために受領したことが認められる。右認定に依ると、特段の事情のないかぎり、抗告人の母小倉シメは抗告人に代り競売期日の通知書を受領する権限を有したものと解するを相当とするので、抗告人に対し競売期日の通知がないことを前提とする所論は、理由がなく、その他原決定には取り消すべき違法はないので、抗告を理由なしと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 鹿島重夫 秦亘 山本茂)

抗告の趣旨

原決定を取消し、本件不動産の競落は之を許さない。

旨の決定を求める。

抗告の理由

一、相手方は債務者藤野恵美子の債務不履行によつて抗告人所有の建物につき競売法による競売申立をなし競売手続開始決定がなされ、第一回競売期日には不競売、第二回競売期日昭和三十四年六月十五日に価格金八十五万円で佐世保市須佐町二〇八番地下田政子が競買し、同月十七日長崎地方裁判所佐世保支部に於て右競買について競落許可決定をなした。

二、然しながら、該物件の所有者である抗告人は佐世保市に於て昭和三十四年五月九日小倉斉治と結婚式を挙げ同月十一日小倉斉治の実家である三重県松阪市に向け佐世保市祇園町一六〇番地より転居し、その後六月初めより小倉齊治の勤務地である現在地に住居を定め現在に至つている。

三、ところが本件競売期日(昭和三十四年六月十五日)の通知書は長崎地方裁判所佐世保支部執行吏職務執行代行者前川勲により同年六月八日午前十時二十分佐世保市祇園町一六〇番地に送達されたが同所に居住する抗告人の母小倉シメは前項に述べた事情を話してその受領を拒んだところ、前記執行吏職務代行者前川勲は諒解し一たん送達をなさずして帰つたが暫らくして再び送達に来り抗告人に対する競売期日通知書を差出し「受領して貰わないと困る又受領しなくてはいけないことになつている」とか云つて殆ど強制的に通知書を受領させ、且つ小倉シメに署名拇印を捺させて帰つたものである。

四、しかして執行裁判所は右執行吏職務代行者前川勲の違法な送達の報告書に基き競売を実施し、下田政子をして競落せしめたものである。

五、然し乍ら競売法第二十七条の規定に依れば裁判所が抵当不動産に付競売手続の開始決定をなしたときは、競売期日及び競落期日を定めて之を公告することを要すると同時に競売の期日は利害関係人である債務者及び所有者等に之を通知することを要することは明白である。而して同法第八条の規定を以て動産の任意競売にあつては、競売に付利害関係を有する者に対してその通知を発することを要するも若しその通知を受くべき者の住所又は居所の知れないときは例外として何ら通知を要しない旨を明らかにするに拘らず、不動産の競売に関しては特にこの点に関する規定を設けることなく、又民事訴訟法第五四二条を準用する旨の規定もなく、この点を考察するときは、不動産競売に付ては動産競売の場合に比し鄭重にその手続を遂行するを至当とし競売期日の通知を受くべき者の住所又は居所の知れない場合と雖も全然その通知なくして競売手続をなすを得ないものと解するを法の精神に合致するものと云わなければならない。

六、尤も競売法に依る競売手続に関して同法に明文なき場合と雖もその性質の許す限り民事訴訟法の規定を準用すべきものであることは勿論であるが、競売法第八条に特に但書を設けた事等の立法精神と不動産競売の性質とに鑑みるときは、民事訴訟法第五四二条は競売法に依る不動産競売手続にその準用なきものと解する。

従つて競売法に依る不動産競売手続に於て債務者、所有者その他利害関係人の住所又は居所が知れないときは裁判所は之等の者に対して公示送達の方法により競売期日を通知すべく、然る後爾後の手続をすべきである。

七、さて本件の如き場合、執行吏職務代行者が抗告人が既に居住しない場所に臨み、抗告人の母小倉シメが事情を説明し該通知書を拒みたるに拘らず、抗告人がその場所に居住しない事を承知し乍ら、尚強引に小倉シメに受領せしめたことは送達が適法になされたものとは云えず、仮りに送達が不法であるとしても利害関係人には競売期日の通知は必ずしも必要でないと解するは前述の如き理由で妥当でない。

何れにしても競売期日通知書は抗告人に対して適法に送達されていないので民事訴訟法第六七二条第一号に掲げたる異議の事由があるものである。

依て本件不動産の競落は之を許さないとの決定をされたく、民事訴訟法第六七二条、第六八一条により即時抗告に及ぶ次第である。

疎明方法

一、疎明書類第一号を以て抗告人は昭和三十四年五月十一日以降佐世保市祇園町一六〇番地に居住していないことを疎明する。

附属書類

一、疎明書類第一号(民生委員証明書)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例